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「かの一群のものを見る」『百たびののち』

重たくとざした灰色雲を屋根として
彼方に雪の山をおき
収穫の後に野にしろき煙たつ
枯れ木の梢むらさきに
煙はやがて靄となるに
影黑き藁塚
わづかに靑きものは麥
つつましく襟かきあはせ蹲(つく)ばへる聚落(じゆらく)々々を
日もすがら黑木の森を驅けめぐるかの一群のものを見る
ある日の旅をわがねつつ渡りの鳥はかくしつつ
その影高くしじまりて揚ると見れば網うつやうになだれたり
天(あめ)にしてかの諧調や
彼方に遠く沈みゆく一つ一つのかたき胸
熱くして快きはやき鼓動をつつみたる小さき胸の數を思ふ
なべてのものを伴へる
灰色雲のいづこにか遠くはるかに彼ら歌うたふ野の梢にまで

 

 

三好達治「かの一群のものを見る」『百たびののち』(S50.7刊)