三好達治bot(全文)

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2019-01-01から1年間の記事一覧

「日本語の韻律」

萩原朔太郞氏著『純正詩論』讀後の感想 萩原朔太郞氏の近著『純正詩論』は、氏の前著『詩の原理』と全く同一系統に屬する、氏一流の浪漫派的詩論を縷說した、愉快な讀物である。この著者の書物は、一讀して甚だ氣持がいゝ、論鋒がテキパキしてゐて、頗る大膽…

『朝菜集』自序

ちかごろ書肆のすすめにより、おのれまたをりからおもふところいささかありて、この書ひとまきをあみぬ。なづけて朝菜集といふ。いにしへのあまの子らが、あさごとに磯菜つみけんなりはひのごとく、おのれまたとしつき飢ゑ渇きたるおのれがこころひとつをや…

「朝の小雀女」『故郷の花』

山遠くめぐりきて朝ごとに來て鳴け小雀(こがら)雲破れ日赤く露しとど落葉朽つ香のみほのかに艸の實の紅きこの庭この庭に來て鳴け小雀破風(はふ)をもる煙かすかに水を汲む音はをりふしこの庵(あん)に人は住めども日もすがら窓をとざせり秋も去り冬の朝…

「路」

鼠坂、そんな名の坂がどこか四谷の方にあつた、それをここにも假りてもいいやうな坂が、ふと電車の窓から見える。中年の人物が一人自轉車をおさへて降りてくるのが、ちらりと見えたきりで、それが眼にのこる。時刻は夕暮れであつたから、何やら風情があつた。…

「お花見日和」

またお花見頃になつた。一月あまり仕事場に抑留されてゐた後久しぶりに東京に歸つて見るともうその季節であつた。抑留は人さまに約を果すためと己れ自身のお勝手向きのためとであつて、いささか引揚者めいた感慨を以てやうやく宅に歸つてほつとした折から、…

「『檸檬』 ――梶井基次郎君に」

君の本が出るのは何より喜しい、喜しいどころではない、僕は肩身の廣い誇りを感じる。僕らの時代の若い作家達の間で、君ほど最初から自信に滿ちた仕事をした人はない。最近君の原稿を整理しながら、僕はしみじみと君への敬意を新たにした。卷頭の「檸檬」の…

「寂光土」『百たびののち』以後

風の波 風の色 風の足音その一陣 一陣……………羊の群れを逐(お)ふてゆく それも旅人逐ふ人も 背(うし)ろの風に逐はれてゆく……………穢土寂光(ゑどじやくくわう)は 冬の日に風の來て掃(は)いて淸めた庭だらうゆつくりとした步(あし)どりで影のない羊の群…

「繰言」「海風」

深谷君から鄭重なお手紙を貰ひ、今度始める雜誌のために、何か隨筆のやうなもの「靑空」の思出でも書いてみないか、といふお話であるが、學生時代の思出話などするのに、私などまだ十年餘り年が若いやうでもあり、かたがた、好箇の話材も思ひ浮ばない。でも…

「青梅花」『百たびののち』

靑梅(せいばい)は 實の靑きにや……またその花のほの靑き品種(しな)なりけらしげに花靑き靑梅花路のほとりの賤が家にさし出でて高きを見たりつくねんと老婆は窓に出でて坐し世間のさまをやをら見わたし眺めたりそこらのさまは肅やかに巷の塵もをさまりて今…