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三好達治bot(全文)

bot及びブログについては初めにこちらをご覧ください http://miyosibot.hatenablog.com/entry/2017/03/28/110448

「旭日旗樹つ」『寒柝』

『寒柝』

サイパンは神州の南關
旭日旗ここに翩翩と樹つ
驕虜ここに蝟集し來り
艦砲ここに直射し
爆彈ここに雨ふれど
旭日旗嚴として硝煙の間に樹つ
戰艦咫尺に出没し
飛機頭上を覆ひ
輕舸走せ
戰車驅り來り
既にして敵勞われに幾倍
勢に傲りて跳梁をほしいままにせんとす
然れども旭日旗なほこの關頭を守りて森然として
至尊のまけに應へまつりて樹つ
サイパンは神州の南關
今四周みな敵
寸土を死守し
白兵晝夜を舎かず
火砲ことごとく碎けさるとも
なほ存す腰間の劍
劍もまた折れ
將兵日に竭(つ)く
然れどもなほ塞守の任は盡きず
見よなほここに旭日旗燦として高く
醜虜の頭上高く飜り樹つ!


旭日旗樹つ」『寒柝』全文

「六月また來り」『干戈永言』

『干戈永言』

六月また來り
みどり萌えさかえ
つばくらら軒端に孵りさへづれり
麥の穗は黃ばみつらなり
ありなしの風にもふるへおののけり
ああ中世勇武のみいくさ
四方(よも)に戰ひ
四方に捷てども
しかれどもあたもまた未だ降らず
しきりにはかりごとをめぐらし
皇國の四邉に來りせまらんとす
われら野にくさかひ
土に水そそぐ日も
この日誰人か初夏の風快きに醉ふものぞ
げにもよきかな
麥の穗は黃ばみおののき
その穗先天を指し怒れるを見よ
卽ちこれわれらが野の六月の歌!


「六月また來り」『干戈永言』全文

「かの空を見よ」『干戈永言』

『干戈永言』

かの空を見よ
かの海を見よ
そこを戰(いくさ)の場(には)として
眼にあまる敵と相擊ち
敵をしりぞけ給ひける
海の長(おさ)
日出づる國の
聯合艦隊司令長官
海軍大將古賀峯一
君つひに機上にたふれ給へりと
この日報あり
一度(ひとたび)は山本提督
二度(ふたたび)はまた古賀提督
提督の身を陣頭に
機上に戰死し給ふと
一億の民はきくなり
東西の歷史(ふみ)にも見ざる
悲しき報否(いな)雄々しき報を
一億の民はききたり
心張り眦(まなじり)決し
いはけなき童(わらは)べさへも
ああこの日
かの空をまたかの海を
今はただ復讐の戰の場と
提督のみ魂のまへに誓ふなり
げに百度も誓ふなり


「かの空を見よ」『干戈永言』全文

「大東亞共榮圈の靑空は僕らの空」『干戈永言』

『干戈永言』

大東亞共榮圈の
靑空は僕らの空
日の丸ひるがへる空
日の丸を翼にそめた
荒鷲のとびかふ大空
何人の侵すをゆるさず
何人の汚すをゆるさず
大東亞共榮圈
靑空は僕らの空

 

大東亞共榮圈の
はてしなき空の隅々
敵機ばら百機來らば
いざ百機のこさず擊ちて
靑空の雲のうへより
擊ち落としたたき落とさん
潮黑き大海原の
鱶泳ぐ波の底まで
鱶の餌と拂ひ落とさん

 

日の本の海の荒鷲
海こえて幾百千里
敵あらばかならず擊ちて
敵あるをつひにゆるさず
大東亞共榮圈の
靑空は僕らの空
日の丸ひるがへる空
日の丸を翼にそめた
荒鷲のとびかふ大空


「大東亞共榮圈の靑空は僕らの空」『干戈永言』全文

「ゆけ學徒」『干戈永言』

『干戈永言』

肇國二千六百餘歲
國步いま 最も艱難の時にあたれり
み軍は四方(よも)に戰ひ 勝ちがたきいくさに捷てど
賊虜また日に旺んに
波濤を踐(ふ)み 長風に御し
はるかに東西南北より
神州の隙(げき)をうかがはんとす
そらにみつやまとの國の
名にしおふともの逸雄(はやを)ら
學び舎にふみよむともも
いかでかはおぞのえびすのさかしらを忍びまつべき
いざよはや逆寄(さかよ)せに擊たでやむべき
螢雪の功をなからに
いざさらば書(ふみ)をなげうち
劍佩(つるぎは)きいましいでたつ
一代の俊髦一世の精鋭
ゆけ學徒
この日天高く氣澄み
視界萬里はるかす地平の極み
海原に 空のはたてに かしこに重き任はあり
ゆけ學徒 ゆきて卿らの任につけ
ますらをの淚ありとも 離別の間にそそがじじ
いざさらば一代の俊髦一世の精鋭
ゆけ學徒
肇國二千六百餘歲
國步いま 最も艱難の時にあたれり


「ゆけ學徒」『干戈永言』全文

「夕立のとほりすぎた」『花筐』

『花筐』

夕立のとほりすぎた小徑のほとりの叢で
いま鳴きはじめたばかりのきりぎりす
したたるばかり雨にぬれたそこのまつ靑な叢にかくれて
そのまつ靑なからだをふるはせをののかせて鳴いてゐるきりぎりす
きりぎりす
自らのうたに調子づいて
いつそう心を張りつめへいつそうせきこんで鳴くきりぎりす
そのうたのひとふしごとに
感情の波をいつそう高くうちあげて
自らの意志を鞭うつやうに熱心に一心不亂に鳴く昂蟲
いつまでもいつまでも力いつぱいわき眼もふらず一途に鳴きつのる昆虫のうた
うたの心 餘韻 反響
ぐつしより雨にぬれた涼しいみどりの艸の葉も
あたりにまばらな雜木林も
木陰の靑い碑(いしぶみ)も
またそよ風も
彼方を遠く流れる雲も
この靜かな晝のひと時を
みんなが耳を傾けてききすましてゐるやうだ
ものかげに忍びかくれた
この一匹の小さな生きもののうた聲に
みんなが息をのんでききとれてゐるやうだ
小川のほとりにうなだれて居眠つてゐる
螢ぶくろもうつとりとうなだれたまま

 

「夕立のとほりすぎた」『花筐』全文

「いのちひさしき」『花筐』

『花筐』

いのちひさしき花の木も
おとろふる日のなからめや
ふるきみやこの春の夜に
かがり火たきてたたへたる
薄墨さくら枝はかれ
幹はむしばみ根はくちぬ
みちのたくみも博士らも
せんすべしらに
枝を刈り幹をぬりこめ
たまがきにたて札たてて
名にしおふ祇園のさくら枯れんとす
いたはりたまへ
たちよりて根かたの土を踏まゆなと
命じたまへり
あな無慙祇園のさくら枯れんとす
みるかげもなくうらぶれし
けふのすがたのあはれさへ
時の間とこそなりけらし
ああこのさくら朽ちはてて
名のみはのこれむなしくも
あとなくならば花の木の
むかしの友のわれらまた
みやこに車おりたたし
春のゆくへを訪はなとて
西にはむかへ東には
杖はひくまじ
あるじなき祇園丸山
夜ざくらのかがり火むなし
二つなき花は伐られてくだかれて
影もほろびし春の夜の
夢のあとどを訪ふにたへめや

ひのもとのいちとたたへし
はなのきをかるるにまかす
せんすべしらに

 

「いのちひさしき」『花筐』全文