2017-06-22 「身は老いて」『花筐』 『花筐』 身は老いて憂ひは深し 事しげく言はみじかし かくばかりながく忍びしこころをば誰に語らん 冬の夜の暗き巷をあてどなくさまよふのみぞ すべもなし今はせんなし わがふるき怒りは眼ざめあたらしき泪はながる すべもなき心のためにあがなひし水仙の花 外套の袖にかくれてわが胸にうなじゆらふよ 香はかをれ身はおののけど 花もまたふかくもだせるさながらやわが悔恨に あはれなるかかる花のみ友さへもなき日の友と 友垣のこゑなきこゑにおろかなる耳をかたむけ なほしばしわれはさまよふ歸るべき方をもしらに とぼそみな暗くとざして人影も絕えし巷を 三好達治「身は老いて」『花筐』(S19.6刊)