2017-05-06 「窗下の海」『干戈永言』 『干戈永言』 一 北海波黑く冰霰屡到る客愁また暗澹として何事か呼ばんと欲し更にまた緘默す嗚呼人(ひと)生を必せず死を必するの時白鷗烈風に啼く人事他なしただ心機一瞬を尚ぶべし 二 心機ただ一瞬を尚ぶべしたまたま我は家鄕をすて北海の濱に流寓す骨枯れ肉はたゆけれども笑ふべし駑馬もなほ千里を想ふげにこの慘憺たる薄暮やただ情思貫直を快とし白鷗の波浪に上下するを望み見て自ら慰む 三好達治「窗下の海」『干戈永言』(S20.6刊)