「すずしき甕」『駱駝の瘤にまたがつて』
天澄み 地涸き
ものみな磊塊
一つ一つに嘆息す
土塁
石みな天を仰げり
寂たるかな
三旬雨降らず
されば羊も跪づき
ともしき夢を反芻す
風塵しばらく小止み
畑つものなほ廣葉
かかる時なお
再び動きてきしり止みぬ
いとけなき
貧しき乙女の半裸なるしばしは
――まことに彼女は時劫に禱るさまなりしが
步どりはやくひたひたとしたたる甕を運び去るなり
我は見る
かの乙女子のかくて彼方に
片なびく柳がくれにひたひたとすずしき甕をその胸に
重たげにはたは輕げに人の世の無限の時を運びて去るを
三好達治「すずしき甕」『駱駝の瘤にまたがつて』(S27.3刊)