三好達治bot(全文)

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「まつ青な五月の空だ」『干戈永言』

まつ靑な五月の空だ
まつ靑な五月の海だ
南へ南へ ぽつかり浮かんだ雲がいくつ しづかに南へ流れていく
その下で海豚(いるか)のむれが踊つてゐる
僕らはみんな砂濱にでて
胸を張つて遠くを眺めた
僕らは南の方の遠い水平線をみつめてゐた
僕らはなにか大きな聲で叫びたい氣持ちになつた
しかし僕らはみんなその氣持を胸にしまつてだまつてゐた
僕らはだまつて空と海との遠くの方を見つめてゐた
まつ靑な五月の空だ
まつ靑な五月の海だ
ああその遠く
水平線のはるかに遠いむかうの方に
いま正午の風にへんぽんとひるがへる軍艦旗
怒濤を蹴つて進む僕らの無敵聯合艦隊
僕らはみんなこの砂濱の砂の上から
それを僕らの心の眼で見おくつてゐた
さうして僕らは胸を張つて
僕らはまた心の耳をかたむけてゐた
いつかは僕らのみんな乘組む無敵艦隊
あの賴もしいあの底力のある機關のこゑに

 

 

三好達治「まつ靑な五月の空だ」『干戈永言』(S20.6刊)

「美なるかな神州」『干戈永言』

この日天靑きに
風起り
雲飛び
雪ふる三度
霰ふる三度す
耳目凛烈
怒濤海を囓み
枯木みな鳴る
昭和第二十
肇國二千六百五歲々旦
玆に越に假寓し
身騾背にあるが如し
白鷗窗を過ぎ
寂寞として聲あるを聽く
彼方山みな白き國土を望み
步して我れ路上に彳ち
また往かんとするところを忘る
げに國運の隆替
ほとんどこの一歲に決せんとするを思ふなり
神風萬朶諸隊の士うべ征く者すべて還らざるや
鵞毛天を覆いて下り
景搖らぎ窈然
交も没し交も顯る
わが肩もまた忽ち白し
美なるかな神州
美なるかな神州
その兵勇にその民愼しむ
戰ひ必ず不敗
寇虜は刄を舞はしむるも
咄自ら頭を拂ふべし

 

 

三好達治「美なるかな神州」『干戈永言』(S20.6刊)

「乾坤無韻」『干戈永言』

輕鞭一揮さへ
寂寞聲あり

 

況や是れ大風支裂して
高響君自ら聽く

 

年少敢爲の士
已に立つ四大の外

 

波を踏み雲に駕し來る
寇虜ただ戲影――

 

昏愚骨枯れ日に頽然
爐に感を作し馬齡を羞ず數々(しばしば)

 

噫乾坤もと韻なし
嚠喨雲鶴號ぶ

 

 

三好達治「乾坤無韻」『干戈永言』(S20.6刊)

「神風隊てふ」『干戈永言』

十機ゆき十機かへらず
百機ゆき百機かへらず
神風隊てふ

 

この日ゆく空のはやをら
明日ゆかん伴(とも)もかへらじ
神風隊てふ

 

さきゆくはゆきてかへらず
のちゆくもただにかへらじ
神風隊てふ

 

あなあたらうらわかき身を
さけくだけかげもとどめず
神風隊てふ

 

日の本はいかしき國や
大君のしこのみたてら
みなかへりこず

 

ゆきむかふ鐡板かたし
ますらをのやたけごころは
まさりてかたし

 

砲(ほう)しげく舷(げん)のあつきを
うらわかきたぢからあはれ
さきはふりたり

 

四つに裂き八つに碎きてはふりたる
艦(かん)よりさきに
あらずますらを

 

いさぎよき報(はう)にはあれど
ゆけるみなうらわかければ
わがいたむまづ

 

いさをしはみずからしらず
ゆけるみなうらわかければ
なみだおつまづ

 

 

三好達治「神風隊てふ」『干戈永言』(S20.6刊)

「決戦の秋はきたれり」『干戈永言』


すめらみくにの興廢は
けふのいくさにかかりたり
ああこのいくさかたずんば
祖宗のくにをいかにせん
  たて一億
決戰の秋はきたれり

 


すめらみくにのもののふが
ちしほにそめしくれなゐの
なみのとたかし北海に
なみのとたかし南海に
  たて一億
決戰の秋はきたれり

 


すめらみくにのうみちかく
うかびておごるえびすらと
みそらをともにいただかず
ただ一擊にはふるべし
  たて一億
決戰の秋はきたれり

 


あだをはふりて宸襟を
やすんじまつれおほみわざ
けふのいくさは一億の
かたにひとしくかかりたり
  たて一億
決戰の秋はきたれり

 

三好達治「決戰の秋はきたれり」『干戈永言』(S20.6刊)

「けふのこのおほみいくさに」『干戈永言』

けふのこのおほみいくさに勝たずんば亞細亞は亡ぶ
ことあげはいかにいふとも
人倫も學も技藝も産業も枯れ荒び朽ち
大東亞十億の民はてしなき奈落に墮ちん
敵はかの鐡の重壓カタピラの踏みゆくところ
一穗の光明のたね一物の微だにあまさず
すゑのすゑいやはての終りの世まで
暗黑の夜の闇もて亞細亞をば覆ひとざさん
その軍はすでに逼れり
決戰をいどむと號すさかしたの兵は驕りて
南溟に胡歌のこゑ高し
天日の下
げにけふこのおほみいくさにくらぶべきみいくさを見ず
起て もののふのほまれをとらんこころざし
ふたつなき伴の逸男ら
起て 起ちて進め
途は一 時は今
途はただ一 時こそは今
けふのこのおほみいくさに勝たずんば亞細亞は亡ぶ
聞け角のこゑ 彼方決戰の朝は明けたり!

 

 

三好達治「けふのこのおほみいくさに」『干戈永言』(S20.6刊)

「敵機来る」『干戈永言』

敵機來る
敵機夜陰に乘じて來る
敵機拂曉にまぎれてくる
敵機また白晝われらの頭上を冒して來る
敵機來る
敵機遠く千里の外より
神州の本土を侵攻し來れり
わが精銳猛鷲
百たびこれを擊ちて退くとも
敵もまたこりずまに百たび來り
さらにまた百たびもその意志をくりかへして
さらに一層執拗果敢なる侵寇を企てんとす
戰は既に雌雄決勝の玄機にのぞみ
天皇土萬物悉皆いま一の白熱焦點にむかひて驀進す
ああ日の御子のすゑの若者
この日君らの死生關頭に立つて
君らの行く手を凝視せよ
その瞳をまじろぐ勿れ
而して
進め
他なし
道は坦として一

 

 

三好達治「敵機來る」『干戈永言』(S20.6刊)