「昼の夢」『駱駝の瘤にまたがつて』
住みなれし山にすまひし
ゆきなれし
ききなれし
あぢあまきみづのみなもと
くさをわけ
きりぎしをとび
うなじふせつまとのむ
わきてこの
八月のひるのすがしさ
ふともわが思ふなりけり
山ふかき林にすまふ
けだものののかかるあはれを
角たかく脚はかぼそき
めのかたはまなこやさしき
木がくれのかかるあけくれ
けだものの身にはあらねど
げにいまは世にも人にも
かびくさき
ただ思ふ
よきつまとわれらもすまん
たき木こり
花のたね庭にまかばや
白日のおろかが夢と
これを知れゆかしからずや
晝の夢夏の夢ひとりゐの夢
三好達治「晝の夢」『駱駝の瘤にまたがつて』(S27.3刊)