三好達治bot(全文)

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「かつてわが悲しみは」『艸千里拾遺』

かつてわが悲しみは かの丘のほとりにいこへり
かつてわが悲しみは かの丘のほとりにいこへり

 

五月またみどりはふかく 見よ
かなたに白き鳥のとぶあり

 

おのが身ははやく老いしか
この日また家にいそぐや

 

あてどなき旅のひと日の
夕暮れの汽車のまどべに

 

かの丘にしづかに來り
かの丘は來りぬかづく

 

見よかしこに なつかしきかの細路は 木の間をいゆきめぐりたり
見よかしこに なつかしきかの細路は 木の間をいゆきめぐりたり

 

されど今はなし 今はなし 今はなし
かの遠き日の かずかずのわがもの思ひ

 

あはれ 今はなし
今はなし げに

 

あはれげに わが思出はかの丘の木かげに眠れり
あはれげに わが思出はかの丘の木かげに眠れり

 

 

三好達治「ヱピローグ」『艸千里拾遺』(『一點鐘: 詩集』S19.4刊)