2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧
★ 野原に出て坐つてゐると、私はあなたを待つてゐる。それはさうではないのだが、 たしかな約束でもしたやうに、私はあなたを待つてゐる。それはさうではないのだが、 野原に出て坐つてゐると、私はあなたを待つてゐる。さうして日影は移るのだが―― ★ かなか…
秋はすつかり落葉になつてその鮮やかな反射が林の夕暮を明るく染めてゐる。私は靑い流れを隔てて一人の少女が薄の間の細道に折れてゆくのを見る。そこで彼女はぱつちりと黑い蝙蝠傘をひらく。私は流にそつて行く。私は橋の袂にたつ。橋の名は「こころの橇」…
ああこの夏のまつ晝まのあまりに明るい炎天の遠い方角えたいの知れない遠くの方から聞えてくるもの音と靜けさとさみしく流れる煙のやうな一つのこゑをきいてゐるのは私の影そこらあたりの燃えたつやうな岱赭の丘を眺めてゐるのは 私とさうして私の影ああこの…
薄の枯れたうらさみしい野みちだむかうの方に堤防があつて 盗びとのやうにいやな奴がそのくせおれのなつかしい河が流れてゐる(それはもうさういふ羽目の辻占だ……)さうしてそいつはいつもかもしのび音に堤防の下の方を流れてゐるそこにはつまらぬ舟が浮んで…
遠い國の船つきでおれは五年も暮してきたおれはいつも獨りぽつちでさびしい窓にぼんやりもたれて暮してゐたああそのながい間ぢゆうおれは何を見てゐただらう鴉 鴉 鴉 あのいんきな鬱陶しい仲間たち今日も思ひ出すのは奴らのことばかりだあのがつがつとした奴…
北の國ではもう秋だあかのまんまの つゆくさの 鴉揚羽の八月は秋は夏のをはりですゆくへも知らぬ人のかずかつて砂上にありし影それらもやがて日が暮れて鴉のやうに飛びさつた去年の墓に隣して一つの夏はまた一つ憂ひの墓をたてました何というさみしい書割り…
門に客あり先生は宅に在りやと問はすかな昨日も鮒の子を賣ると窓をたたきし村人のさこそは我れをよばひたれ世はそらごとのつねなればいつかは耳にききなれてよばふにまかれうべなれどまことは感のなからめや老の眼鏡に書を讀むを先生などと推(すゐ)すらめ…
えたいのしれない駱駝の背中にゆさぶられておれは地球のむかうからやつてきた旅人だ病氣あがりの三日月が砂丘の上に落ちかかるそんな天幕てんとの間からおれはふらふらやつてきた仲間の一人だ何といふ目あてもなしにふらふらそこらをうろついてきた育ちのわ…