「我ら何をなすべきか」『百たびののち』
傷(て)を負つてはんやになつて
一羽の雉が墮ちてゆく
谿川の瀨の鳴る中を
あたりに殘る谺の中を
谿のむかふへ墮ちてゆく
墮ちてゆく
一度は空にあがつたが
再び空に身をなげたが
いづれは墮ちるものとして
抛物線を墮ちてゆく
墮ちてゆく
…………
夕暮れに眼をつむつて
虛空に血を流して
身悶えて
痙攣して
今朝の寢床へ
枯木の林へ
谿のむかふへ墮ちてゆく一つの運命
ああまたしてもその時私の垣間見しもの
さらば我ら
何をなすべきか
彼方一(いつ)の庖厨へ
歷史は彼らの食膳へ
一羽の雉が墮ちてゆく!
三好達治「我ら何をなすべきか」『百たびののち』(S50.7刊)