三好達治bot(全文)

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「北の國では」『日光月光集』

北の國ではもう秋だ
あかのまんまの つゆくさの 鴉揚羽の八月は
秋は夏のをはりです
ゆくへも知らぬ人のかず
かつて砂上にありし影
それらもやがて日が暮れて
鴉のやうに飛びさつた
去年の墓に隣して
一つの夏はまた一つ
憂ひの墓をたてました
何というさみしい書割りだ
海は每日真つ靑で
白帆を天の末におく
砂の舞臺にこれはまた
ロシナンテに鞍おいて
ふらりふらりと影のやう
ハムレット様がお出ましだ
さてもさても人の世は
何から何まででたらめで
さかしまごとの砂の山
砂の谷には紫の もろげな ゆかしい
ほんににげない五瓣の花が咲きました…
「馬鹿の花」だよ
河童どもがとへばさう
にべもなくこたへるけふこの頃
ああ何かしら
心のすみか
一つ一つ
忘れともないものがまた
忘れられてもゆくやうな
八月は私の生れ月
あかのまんまの つゆくさの 鴉揚羽の八月は
北の國ではもう秋だ

 

 

三好達治「北の國では」『日光月光集』(S22.5、10刊)