三好達治bot(全文)

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「寒柝」『寒柝』

星冴え
山山か黝くたたずみ
聚落じゆらく寂莫として
灯火ともしび暗く睡れるに
丁鼕ていとうとはるかに馨あり
風死し
水渇れ
何ものの應ふるなきに
丁鼕と馨はひとり寒天に起り
げきたる彼方を步み來る
夜深くして睡らざるもの
凛烈たる意志
聽けそは如何に耳朶にこころよきかな
地表のものすべて今は結氷し 氷割ひわれ 假死し
この尊ぶかき聚落の頭上滿天に
欄干らんかんたる星辰のみただ頻りにわななける折しも
ここに戞然として擊柝げきたくの馨路上にあり
そはわが窓下を過ぎ
遠く彼方に去る
頗る深省を發せしむるもの
まことに警世の馨といふべし
げにそは三更の夜陰をつんざ
今日の日の凄烈たる意志――

 

 

三好達治「寒柝」『寒柝』(S18.12刊)