「青き海見つ」『寒柝』
ひととせははやくめぐりて
きのふけふその花にほふ
をかのべの梅の林を
もとほりつ
靑き海見つ
靑き海見つ
寒き梢に
はつはつにこのもかのもに
香はかをれ
ほのかなる香の
その香よりさらにほのかに
ひとすぢの煙をなびかせ
みづからの影もけぬがに
かぎろひつ沖のはたてを
わたる船見ゆ
船一つ見ゆ
日の晝を羽音さやかに
枝うつる小鳥のともも
なほうたはなくてひそかに
しぬびたり林の道を
民くさのわれもますらを
感にたへ情にしぬびつ
もとほりつ
靑き海見つ
靑き海見つ
いくさあるさかひにつづく
みんなみの
ひんがしの
海
見るかぎり
ただかがよへる
紺靑の
靑き海見つ
花の間に
靑き海見つ
三好達治「靑き海見つ」『寒柝』(S18.12刊)