『寒柝』
サイパン敵手に落つ報は七月十八日十七時慘として一億が耳朶を撲ち肺腑に徹す寇虜日に勢を逞しくし南溟の要關つひに援けなく孤壘夷(たひら)ぎ火砲碎け硝藥盡き刀刃折る而もなほ守兵險に據り嵎を負ひ萬死の地寸土をだもかりそめにせずああ將士みな至尊のま…
歷史は一の運行にして船舶これを載せ、船舶これを運ぶ。今日鐵塊を擊ち、鐵板を截つて船舶を建造する者、卽ち兄らは兄らの雙手をもて國民の意志を押し切り、祖國の正義をはるかに萬里の外に布く者、まことに手づから今日の歷史を設計し運營し推進する者。兄…
半宵眠り成りがたくひそかに思ふ萬里の外星かげまれなる夜陰をつらぬき一の艦影幻の如く煤煙遠くふきなびけ舷燈ことごとく滅して疾航(しつかう)し疾航するを――風はやし吹雪まひいでかぐろき怒涛舷側の飛沫聲あるものことごとく叫び吼え聲なき石は緘默(か…
丘のべにさくらは咲きぬ濠ばたにさくらは咲きぬ町びとのつきかふつむじ海とほく見ゆるつつみにげにうらうらとさくらの花はさきいでぬ萬里のほかにゑびすらをうらせたまひてうるそ身はかへりたまはぬ益良男のみたまいまかへりたまひぬしきしまのやまとの國に…
松の林のした草ははやうらうらと萌えてしが彌生高潮(やよひたかしほ)鳴るなべに坐りてむすぶ白砂はなほしをゆびにつめたけれつめたき砂をいくたびかわれはむすびつたなぞこにもろき小阜(つかさ)はくづほれぬそがひの山は暮るるとて彼方に赤き雲は燃ゆこ…
そのこころうらうらとそのすがたたをやかに權(けん)たかききはにはあらぬそのよそひうすくれなゐにつつましきいざ彌生 ひいなまつりのもものはなさすたけのきみらのはなぞげにこのくにのをとめごらこのはなこそは――きのふけふしたてるばかりにさきにほふを…
あなあたらますら武夫(たけを)がうつし身はゑびすが彈丸(たま)にはじけとびたまひけらしなけふ春の野べをとどろと走りこしひとつらの汽車靖國のみたまをのせて雲雀啼く寒驛の晝しづかなる構舎に入りぬ昨(さく)の夜は警報布(し)きて村人らかたみにた…
さくらの下に子らあまたつどひて遊べうらうらとさくらの花のさきいづる並木のかげはものなべてほのかににほひ明るみて肌さむき日のうす陽さへわきてなつかしこぞの日のかかる春日はるひもわれはこの水のほとりに古椅子にいこひてものを思ひたり國こぞり讐の…
星冴え山山か黝くたたずみ聚落じゆらく寂莫として灯火ともしび暗く睡れるに丁鼕ていとうとはるかに馨あり風死し水渇れ何ものの應ふるなきに丁鼕と馨はひとり寒天に起り闃げきたる彼方を步み來る夜深くして睡らざるもの凛烈たる意志聽けそは如何に耳朶にここ…
ひととせははやくめぐりてきのふけふその花にほふをかのべの梅の林をもとほりつ靑き海見つ靑き海見つ寒き梢に的皪てきれきと咲くやこの花はつはつにこのもかのもに蕋しべは黃に天をゆびさし香はかをれほのかなる香のその香よりさらにほのかにひとすぢの煙を…
世に最賤劣の裏切あり世に最酷薄の忘恩あり世に最鐵面皮の破廉恥あり世に何事か忍びて爲さざるなきの意思あり然り 我らそを太陽の下に見る我らそを今日つぶさに眼前に見たり起て佛蘭西!昨は汝の精銳十萬フランダースの野に竭きし時砲聲を彼方に聞きすて三軍…
-相模野乙女に代りてうたへる み軍いくさはみなみにすすみ西東一萬海里天つ日の光ひた射す海原に陸くがに小島に日のみ旗なびかひゆかずしのびつつ初夏の野にほととぎす啼きわたる日にあまさかるひなの乙女がうたうたひいく日か摘めるこれはこれ梅のまろ實ぞ…
ああ天高く地は廣き亞細亞の柱日の本の男の子と生れ大君のやがてみ楯と生ひたちてさきもにほはん櫻花われら銃後の少國民 ああ山靑く水淸きわが日の本は住む人のこころも直ぐひとすぢにみ國をおもひ身をすてしいさをを誰か忘るべきわれら銃後の少國民 ああ風…
日本の子供日本の子供世界一幸福な日本の子供世界一重い責任と 世界一高い名譽とをになふ日本の子供正義の戰さにうち勝ち 人道の上に明日の世界をうち建てるもの日本日本の子供世界の地平に輝かしい夜明けをもたらすもの世界に永遠の平和と 希望と 繁榮とを…
昨夜よべ高かりし海の音今宵またかうかうと怒り高鳴りいねがての枕べのものさゆらぎやまず小夜ふけの三更四更なゐふるひ家居いえゐさへ時にわななくああそは人のこころのふかく忍びて怒りに耐へたるに似たるかな敵機昨帝都に入り羶羯せんけつの徒神州の空を…