山遠くめぐりきて
朝ごとに來て鳴け小雀(こがら)
雲破れ
日赤く
露しとど
落葉朽つ香のみほのかに
艸の實の紅きこの庭
この庭に來て鳴け小雀
破風(はふ)をもる煙かすかに
水を汲む音はをりふし
この庵(あん)に人は住めども
日もすがら窓をとざせり
秋も去り冬の朝(あした)は
弊衣領(へいいえり)寒く
隙間風こころに透り
また方外に遊ぶに倦んず
折からや
いばらの垣に
百日紅枯れし小枝に
藤棚に
松のしづ枝に
來て鳴け小雀
曇りなき水晶の珠二つ
相寄りてふれあふごとき
そのこゑのすずしさをもて
いざさらば
たへがたき人の世の辛酸
ことさらにひややかに
われらが骨に入らしめよ
三好達治「朝の小雀女」『故鄕の花』(S21.4刊)