三好達治bot(全文)

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「庭すずめ七」『百たびののち』

例年の例のとほりに
冬に入るとまた雀らが歸つてくる
柿の木の高いところに しばらく見失つてゐた數だけ集つてゐる
柿の木は裸で 彼らはすつきり恰幅がよくなつて見える
艶やかに磨きがかかつて 落ちつき拂つて見える
あのおしやべり屋がだまつてゐる
冬の日は暖かに この貧しい庭にもふりそそいでゐる
この家の主じはいささかの食餌(しよくじ)を 彼らのために毎日忘れないしきたりであるが
今年もまたその季節の間二た月ばかり 彼らはここを留守にした
さうして忘れず歸つてきた
いづれは武蔵野いちめんの田圃をかけまはつてきたのであらう
えいえいわいわい八方から集つた仲間と大騷ぎで
二百羽三百羽と群れをなして朝つぱらから
そこらのとり收れどきを荒しまはつてきたのに違ひない
お百姓さんには憎まれつ放し 迷惑のかけつ放しで
好き放題な食ひ逃げのあと 風をくらつて舞ひもどつてきた
あのおしやべり屋が だまつてゐる
それでもその數はきちんともとの一組である
まあよく無事にもどつてきたものさ

 

群盗のはてのちりぢり柿の木に
ふところ手する庭すずめ七

 

 

三好達治「庭すずめ七」『百たびののち』(S50.7刊)