三好達治bot(全文)

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「不知火か」『百たびののち』

——不知火か あらず 漁(いさ)り火
夜もすがら 漁り火を見る 夜もすがら
天低うして風は死し
はてなき時の脈搏のみ
こなたに やをら うちかへす闇の起き伏し
まどかなるそが胸に かがやかに とおくはるかに
——不知火か さなり虛しく
おきつらねたるものを喪ふ
さらばこの闇黑の點じ出でたる莊麗を
夜もすがら漁り火を見る
遠くはるかに かがやかに さては八束(やつか)に
肩の邊に いまわが見るは
短夜を 昨日を今日に 漁り火の かの不知火の 點じ出でたる闇なるか
明日の來て 誰れびとの手かかぐるものぞ かくはてしなき偏在を
師よ 友よ 海(うな)さか越えて われもまた卿らの方に步むものなり
厩舎の戸ぼそ曳き出でて かの轡(くつわ)づら
解き放ち放つごとくに 家畜らを ひろ野の牧に
己(し)が影を かい放ちやり……

 

 

三好達治「不知火か」『百たびののち』(S50.7刊)