三好達治bot(全文)

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「国のはて」『百たびののち』

國のはて 國々のはて 岬々をへめぐりて
見はるかしたる海の色
晴れし日に ひな曇る日に
人けなき燈臺の窓の硝󠄁子に
しんしんと松󠄁のみどりの痛かりしその空こえて
ゆるやかに聲ありしその風の上に

 

歸りきてまたわが思ふ
小夜ふけの枕べの 夢ならず
眼にさやか 耳にもさやか
うつつなれこそ ふたたびはとらふべからじ
うちかへし
夜衣の袖むなしくかへし

 

かろらなる
海どりの
白き翼の
ただにその
行へを思ふ

 

こと果てぬ
良し

 

すなどりのいささ舟 なりはひの彼方に遠󠄁く
赤き日は沈みたらずや
われをして いざさらばかい放て ふたたびは歎ぜしめざれ
過󠄁ぎし日の方なるものに……

 

 

三好達治國のはて」『百たびののち』(S50.7刊)