三好達治bot(全文)

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「故鄕の柳」『百たびののち』

草におかれてうつぶせに
大きな靑い吊鐘が
橋のたもとにありました
どういふわけだか知りません

 

腹のところのうす赤い
僕らは鮠(はや)を釣りました
提(ひさ)げに入れるとすぐに死ぬ
それははかない魚でした

 

動物園の前でした
動物園では虎がなく
ライオンがなく象もまた
日暮れになるとなきました

 

古い柳がかたむいて
三本五本ありました
尺とりむしがまたしても
僕らの頸(くび)におちました

 

白い汽艇(ランチ)でやつてくる
お巡(まは)りさんは頷紐(あごひも)で
舳(へさき)に浪をたてました
浪をのこしてゆきました

 

さつきは三時いまは五時
ねつから魚も釣れません
浮木(うき)がをどつてかたむいて
うねりかへしに揉(も)まれます

 

そろそろあたりが夕燒けて
水のむかふの病院に
灯(ひ)のつくころに蝙蝠(かうもり)が
「行燈(あんど)のかげから」舞つてでる

 

それらの友はどうしたか
甘い林檎の香のやうな
その日の友もおほかたは
故鄕に住まずになりました

 

 

三好達治「故鄕の柳」『百たびののち』(S50.7刊)