三好達治bot(全文)

twitterで運転中の三好達治bot補完用ブログです。bot及びブログについては「三好達治botについて」をご覧ください

「あの頃は空が低かつた」『駱駝の瘤にまたがつて拾遺』

あの頃は空が低かつた
肩が星につつかへた
文なしで宿なしで
彼は港をほつついた
靴の踵(かかと)をひんまげて
蟬のつぎはきりぎりす
それからつぎはこほろぎだ
秋がきて霜がふり
やさしい奴らはかくして死ぬ
さうして世間は靜かになり
婆々あが砧をうつことだ
我慢をしろ我慢をしろ
これが神さまのご褒美だ
夜露の椅子にくたびれて
情けないやるせない味氣ない
何たる昨日の鬼火だらう
まことに然りだ
…………
豹うせし檻なり…………
空しき惡臭なり……か
動物園の園丁なら
ポンプの水をぶつかけろ!

 

 

三好達治「あの頃は空が低かつた」『駱駝の瘤にまたがつて拾遺』(『全集3』所収)