「かなたの梢に――」『駱駝の瘤にまたがつて』
かなたの梢に憩ふものあり
日は南 木は枯れて 空靑し
またこの冬のかばかりもさまかへし
田のおもてものもなく人を見ず
山低き野のすゑに憩ふもの
こころみになが指に數ふべし
稚な兒よときの間のつれづれの汽車の窓
よごれたる玻璃の陽ざしに
さらばわれらがお指にもかがなべてみん
人の世の途すがら次々に遠くわが失ひしものの數
かの
團欒のその數の
やすらふと似たらずや
雪ふらん 明日はこの野に雪ふらんとも
けふ空靑し
よきかな 眼路のはて
何の木か しらじらと枝高し
その枝に黑きものみな翼ををさめ
參差として 彼らの數をつくしたり
この空や 明日はかぐろに雪はふらんとも――
三好達治「かなたの梢に――」『駱駝の瘤にまたがつて』(S27.3刊)