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「遠くの方は海の空」『駱駝の瘤にまたがつて』

遠くの方は海の空
そこらのつまらぬ水たまりで小僧が鮒など釣つてゐる
さみしい退屈な奴らだよ
いつもこんなところの木かげにかくれて油を賣つてゐるのだよ
崩れかかつた堤防がぼんやりあたりを霞ませて
そこいらいちめんすくすくと蘆の角がのぞいてゐる
くされた都會の場末から一里も遠い埋立地
なるほど奴らがふらふらとこんな陽氣に浮かされて
考へもなくやつてきて水のほとりにしやがんでゐる
垢まみれの帽子のかげにも
時にまたついと沈む浮標(うき)のやうなたよりなげな感情はなやんでゐるのだ
時はこれ一九四九年 ゆく春のまつ晝ま
空しい風がたはむれて弓なりに吹きたわめては飜へすかすかな釣絲
正午だからぼおうとどこかで汽笛も鳴る
遠くの方は海の空

 

 

三好達治「遠くの方は海の空」『駱駝の瘤にまたがつて』(S27.3刊)