三好達治bot(全文)

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「旗」『駱駝の瘤にまたがつて』

だからあの夢のやうなまつ白な建築 遠く空に浮んだ無數の窓のうへに
その尖塔のてつぺんにひるがへる旗を見よ
高く高く細くまつすぐにささげられた旗竿のさき
ああそこにも一つの海を見る
海のやうにひるがへる旗を見る
ああその氣流の流れるところに 波は無數に立ちあがり
ゆるやかにあとからあとから 無限に沖の方からおし寄せてくる
そこらあたりの山脈から 空の奧からけふもまたおし寄せてくる
天空高くおし上げた彼らの夢を追つてくる無數の生きもの
あはれにすなほな鵞鳥の群 山羊や仔山羊や緬羊や仔牛をつれた乳牛や
何を目あてにいそぐのか彼らの肩に波うつて押しあひへしあひ
天上のそんなところで(――あるものは叫びながら)あとからあとから彼らの希望を死んでゆくああその陰氣な仕切りのうち 無數の豚が死んでゆく屠殺場
そんな風にも見えないかい
今日の綺麗に晴れあがつた空のあすこに つめたく凍つて動かないうろこ雲と
夢のやうにそそりたつまつ白な建築の尖塔のてつぺんに
高く高くあんなに小さく見えるまで高くかかげられてゆるやかに流れる旗と

 

ああいつもさういふ一つの歷史の旗が人間の住む都會の空にひるがへつてゐる

 

 

三好達治「旗」『駱駝の瘤にまたがつて』(S27.3刊)