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「薪を割る音」『砂の砦』

けふ 薪を割る音をきく
彼方 遠き野ずゑのかた岡に
日もすがら薪を割る音をきく
丁東 東々
松も柏も摧かるる音をきく
春は來ぬ
ものなべて墓場の如き沈默にねむりたる冬の日は去り
しづかに春はめぐりくる
けふその音の
されどわが心には
如何にうらがなしくもひびくかな
孤獨なる 孤獨なる燈火(ともしび)の下に
ながくしのびてうづくまり
うつらうつらと骨に彫(ゑ)りけん文字や何
ああその冬の日の後に
めぐり來し春の日なるを
日をひと日
彼方 遠き野ずゑのかた丘に
薪を割る音をきく
日もすがら薪を割る音をきく
丁東 東
けふその音のされどわが心には
如何にうらがなしくひびくかな

 

 

三好達治「薪を割る音」『砂の砦』(S21.7刊)