「我ら戦争に敗れたあとに」『故郷の花拾遺』
我ら戰爭に敗れたあとに
一千萬人の赤んぼが生れた
だから海はまつ靑で
空はだからまつ靑だ
見たまへ血のやうな
ぽつちりと赤い太陽
骨甕へ骨甕へ 骨甕へ
齡とつた二十世紀の半分は
何も彼もやり直しだと跛(びつこ)の蛼(こほろぎ)
葉の落ちつくした森の奧
まどかな丘のひとうねり
冬の畑の豆の花
歷史は何をしるしたか
雲が來てすべてをぬぐふ
まつ靑な空
まつ靑な海
飛行機はあそこに墜ち
軍艦はあそこへ沈んだ
萬葉集の歌のとなりに
砲彈の唸りをきくのは
まばらに伐られた林の奧に
それは何ものの影であらうか
けれどもまつ靑な
空と海
我ら戰爭に敗れたあとに
一千萬人の赤んぼが生れた
「我ら戰爭に敗れたあとに」『故鄕の花拾遺』(『全集2』所収)