三好達治bot(全文)

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「荒天薄暮」『故鄕の花』

天荒れて日暮れ
沖に扁舟を見ず
餘光散じ消え
かの姿貧しき燈臺に
淡紅の瞳かなしく點じたり
晩鴉波にひくく
みな聲なく飛び
あわただしく羽(はね)うちいそぐ
さは何に逐はるるものぞ
慘たる薄暮の遠景に
されどなほ塒あるものは幸なるかな
天また昏く
雲また疾し
彼方町の家並は窓をとぢ
煤煙の風に飛ぶだになし
長橋むなしく架し
馬車影絕え
松並木遠く煙れり
――景や寂寞を極めたるかな
帆檣半ば折れ
舷赤く錆びたるは何の船ならむ
錨重く河口に投じ
折ふしにものうき機關の叫びを放てり
まことにこれ戰ひやぶれし國のはて
波浪突堤を沒し
飛沫しきりに白く揚れども
四邊に人語を聞かず
ただ離々として艸枯れて砂にわななき
われひとりここに杖を揮ひ
友もなく悲歌し感傷をほしいままにす

 

 

三好達治「荒天薄暮」『故鄕の花』(S21.4刊)