「朝はゆめむ」『故郷の花』
ところもしらぬやまざとに
ひまもなくさくらのはなのちりいそぐを
いろあはきさくらのはなのひまもなくななめにちるを
あさはゆめむ
さくらのはなのただはらはらとちりいそぐを
はらはらとはなはひそかにいきづきてかぜにみだれてながるるを
やみてまたそのはなのはつかにちるを
さくらのはなのかくもあはれにちるをゆめみしあさのゆめ
めにさやか――
またみづよりもしめやかにこころにしみてわすれがたかり
わきてこはかやのすそはやひややかにほにふるる
うらぶれしあきのあさなれば
ゆめさめてわれはかなしむ
ゆゑしらぬとほきひのなげかひのいやとほきはてのなごりを
三好達治「朝はゆめむ」『故鄕の花』(S21.4刊)