三好達治bot(全文)

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「浅春偶語」『一点鐘』

友よ われら二十年もうたを書いて
已にわれらの生涯も こんなに年をとつてしまつた

 

友よ 詩のさかえぬ國にあつて
われらながく貧しい詩を書きつづけた

 

孤獨や失意や貧乏や 日々に消え去る空想や
ああながく われら二十年もそれをうたつた

 

われらは辛抱づよかつた
さうしてわれらも年をとつた

 

われらの後に 今は何が殘されたか
問ふをやめよ 今はまだ背後を顧みる時ではない

 

悲哀と歎きで われらは已にいつぱいだ
それは船を沈ませる このうへ積荷を重くするな

 

われら妙な時代に生きて
妙な風に暮したものだ

 

さうしてわれらの生涯も おひおひ日暮に近づいた
友よ われら二十年も詩を書いて

 

詩のなげきで年をとつた ではまた
氣をつけたまへ 友よ 近ごろは酒もわるい

 

 

三好達治「淺春偶語」『一點鐘』(S16.10刊)