三好達治bot(全文)

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「落葉」『測量船』

 秋はすつかり落葉になつてその鮮やかな反射が林の夕暮を明るく染めてゐる。私は靑い流れを隔てて一人の少女が薄の間の細道に折れてゆくのを見る。そこで彼女はぱつちりと黑い蝙蝠傘をひらく。私は流にそつて行く。私は橋の袂にたつ。橋の名は「こころの橇」。水の面にさまざまの觀念が、夕映に化粧する。私は流にそつて行く。私は橋の袂にたつ。橋の名は「鶫」。その影が水の面に顫へてゐる。私は杖に身をもたせる。私は遠くにまた橋を見る。また橋を。その橋の名は?――その橋の名は私がつけよう、「私のものーくる」。…
 そして日は暮れ易い。もう私の散步があまりに遠くはないだらうか?

 

三好達治「落葉」『測量船』(S5.12刊)