三好達治bot(全文)

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「鴉」『駱駝の瘤にまたがつて』

遠い國の船つきでおれは五年も暮してきた
おれはいつも獨りぽつちでさびしい窓にぼんやりもたれて暮してゐた
ああそのながい間ぢゆうおれは何を見てゐただらう
鴉 鴉 鴉 あのいんきな鬱陶しい仲間たち
今日も思ひ出すのは奴らのことばかりだ
あのがつがつとした奴らが明け暮れ邉鄙な空にまかれて
漁船のうかんだ海の上まであいつらが空をひつかきまはした
朝燒けにも夕燒けにも
せつかく繪具をぬりたてた
そこいらぢゆうの風景をめちやめちやにして
あいつらは火事場泥棒のやうにさわぎまはつた
何といふがさつな淺ましい奴らだらう
朝つぱらからしののめから
奴らはせつせと遠くの方まで出かけていつた
さうしてそこらの砂濱で何だかごたごた腐つたさかなの頭なんかを
頰ばつたりひろひこんだり
あくびをしたり喧嘩をしたりさ
それから小首をかしげたり
さうして都會の小僧どもが日暮れの自轉車をふむやうに
奴らはせかせか羽ばたきをして
後から後から後から 海を渡つてもどつてきたものだ
けれどもどうだらう
これから後五百萬年も きつと奴らは滅びることはないだらう
そんな苦しい考へから
おれはいつもひとりで結局ふさぎこんでしまつたものだ
おまけに今日は東京銀座の四つ辻で
外でもないおれはまたあいつらのことを思ひだしてゐるのだ
何といふわびしい追想だらう
笑つてやれ!
ここではお洒落なハンド・バッグが何だかあいつらのまねをして
この日の暮れのうすぼんやりした海の上をせかせか羽ばたくからだ

 

 

三好達治「鴉」『駱駝の瘤にまたがつて』(S27.3刊)