三好達治bot(全文)

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「馬鹿の花」『砂の砦』

花の名を馬鹿の花よと
童(わらは)べの問へばこたへし
紫の花
八月の火の砂に咲く馬鹿の花
馬鹿の花
三里濱三里の砂の丘つづき
この花咲きて
海どりの白きむらがり
古志(こし)の海日すがらここにとどろけり
朱きふどしの蜑の子ら
松の林にあらはれてわめきさざめき走りゆく
踵(かがと)やくまばゆき砂に人の子の影のすばやさ
そよやはやかへらぬ時を三たびまたこの花さきし
日のさかり
帽の鍔ひろきかたむけ
ひとりわが越えゆく丘の起き伏しに
蔓は蜘蛛手にはびこりて
遠きしじまの紫の花はかろらに息づけり
そよとだに風もふかぬにその花のみなわななける
手にとらばやがてしをれん
ひななれどもろげなる
心もゆかし馬鹿の花
馬鹿の花
あはれ知る人なき濱の八月の
火の砂に咲く
紫の花

 

 

三好達治「馬鹿の花」『砂の砦』(S21.7刊)