三好達治bot(全文)

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「竹の靑さ」『砂の砦』

竹の靑さは身に透る
竹の靑さよ骨にも透る
ああ竹竹
靑く煙つた大竹藪に
鳩が一羽舞ひたつた
夢のやうに羽音もなく
靑い煙にかすんで飛んだ
そのあとをまた一羽
はたはたと斜に空へ拔け去つた
日暮れどきの竹藪は
靜かな海の底のやうだ
かうして私は爪先のぼりに
丘の小徑をのぼつていく
この心は孤獨でさみしい
この心はさみしくひとりものを思ふ
この心は仲間を遠くのがれて來た
この心は冬の野のこの寒い小徑を遠くさがし求めて來た
――ここに一つの決意をさがし求めて來た
すがすがしい竹の林は
時にさやさやと ひそかに あるかなきかに
遠い かすかな ささやきの通り路となる
そのこゑはとらへがたく
そのこゑはすぐ私の肩の上を通つてゆく
それはどこかそこらあたりから
すぐにまたさざなみのやうにしづかに起つて
すぐ私のかたわきをさやさやと通りすぎてゆく
ああ竹竹
矗々として地に生え
その心矗としてひそかに語るもののこゑ
かかる人なき路の上にも
さやかに ささやかに ひそかに語るもののこゑ
ああ竹
竹の靑さは身に透る
竹の靑さよ骨にも透る

 

 

三好達治「氷の季節」『砂の砦』(S21.7刊)