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「蒼穹賦」『干戈永言』

 

 八月二十日敵機九州北邉を侵す、わが邀擊機中敵機と高空に相衝擊して玉碎するもの三、操縦者山田野邉高木みな紅顔の靑年のみ、感に耐へず一詩を賦す。

 

嗚呼
父の國
母の國
わが大君のしろしめす日の本の空
この大空に戰ひて死ぬをほまれと
靑雲のたたなはる上
日一輪高くかかりてみそなはす戰(いくさ)のにはに
むかへ待つ
B29
笑ふべし空の塞(とりで)と
ただ一つ裝甲の堅きをたのむ
あたの徒が遠來の長き翼の
編隊の陣が幾陣
邀へ擊ち
擊ち靡け
なほひとすぢに
逼り擊ち
追ひすがり擊つ
サイパンの昨(さく)の讐(かたき)の
片われの空のまれびと
はるばると來せしともがら
一機だにあだにかへさじ
かかる日を待ちて備へし
久米の子の空の逸雄が
はやり擊つ手練膽略
あなさやけ
えびすらが眼にも見つらん
駈引のこはうらみなき武邉(ぶへん)のみ
日の本の益良武夫の兵法と
思ひたがひそ
いざさらば見よやかくよと
あなあたら由旬(ゆじゅん)の空に
うら若き身をなげうちて
玉ならばかくは碎けん
もののふの身みづから烏滸(おこ)の塞(とりで)ともろともに
碎け飛び
飛び散らひおほせ給ひし
轉瞬(てんしゅん)の彌猛(やたけ)ごころを思ひ見よ
けふの日の空靑ければ
ふりさけて泪下る
うらわかきみをあまがけり
かけりさり
かへりたまはぬいくさがみはや

 

 

三好達治「蒼穹賦」『干戈永言』(S20.6刊)