「六月また来り」『干戈永言』
六月また來り
みどり萌えさかえ
つばくらら軒端に孵りさへづれり
麥の穗は黃ばみつらなり
ありなしの風にもふるへおののけり
ああ中世勇武のみいくさ
四方(よも)に戰ひ
四方に捷てども
しかれどもあたもまた未だ降らず
しきりにはかりごとをめぐらし
皇國の四邉に來りせまらんとす
われら野にくさかひ
土に水そそぐ日も
この日誰人か初夏の風快きに醉ふものぞ
げにもよきかな
麥の穗は黃ばみおののき
その穗先天を指し怒れるを見よ
卽ちこれわれらが野の六月の歌!
三好達治「六月また來り」『干戈永言』(S20.6刊)