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三好達治bot(全文)

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「夕立のとほりすぎた」『花筐』

夕立のとほりすぎた小徑のほとりの叢で
いま鳴きはじめたばかりのきりぎりす
したたるばかり雨にぬれたそこのまつ靑な叢にかくれて
そのまつ靑なからだをふるはせをののかせて鳴いてゐるきりぎりす
きりぎりす
自らのうたに調子づいて
いつそう心を張りつめへいつそうせきこんで鳴くきりぎりす
そのうたのひとふしごとに
感情の波をいつそう高くうちあげて
自らの意志を鞭うつやうに熱心に一心不亂に鳴く昂蟲
いつまでもいつまでも力いつぱいわき眼もふらず一途に鳴きつのる昆虫のうた
うたの心 餘韻 反響
ぐつしより雨にぬれた涼しいみどりの艸の葉も
あたりにまばらな雜木林も
木陰の靑い碑(いしぶみ)も
またそよ風も
彼方を遠く流れる雲も
この靜かな晝のひと時を
みんなが耳を傾けてききすましてゐるやうだ
ものかげに忍びかくれた
この一匹の小さな生きもののうた聲に
みんなが息をのんでききとれてゐるやうだ
小川のほとりにうなだれて居眠つてゐる
螢ぶくろもうつとりとうなだれたまま

 

「夕立のとほりすぎた」『花筐』全文