「桜花繚乱」『寒柝』
さくらの下に子らあまたつどひて遊べ
うらうらとさくらの花のさきいづる並木のかげは
ものなべてほのかににほひ明るみて
肌さむき日のうす陽さへわきてなつかし
こぞの日のかかる
古椅子にいこひてものを思ひたり
國こぞり讐のゑびすのかへり血の
みどりにそみてたたかへる野山はのどか
ほどちかき海の空よりきてまへる
鷗の翼かろらかになか空の風にあがれり
日の本はいくさする日もみやびかに
かしこに起る子らのうた
うらうらと櫻の花のさきいづるかげをゆきかふ
げにもこれおどろの路をふみわきて
われらの正義
艱難と犧牲と榮譽
ふるき世にためしもあらぬ春の日を
はやかぐはしく散りいそぐ花は二ひら
三ひら五ひらわが袖にしばしやすらふ――
三好達治「櫻花繚亂」『寒柝』(S18.12刊)