三好達治bot(全文)

twitterで運転中の三好達治bot補完用ブログです。bot及びブログについては「三好達治botについて」をご覧ください

「灰色の鴎」『一点鐘』

彼らいづこより來しやを知らず
彼らまたいづこへ去るやを知らない

 

かの灰色の鷗らも
我らと異る仲間ではない

 

いま五月の空はかくも靑く
いま日まわりの花は高く垣根に咲きいでた

 

東してここに來る船あり
西して遠く去る船あり

 

いとけなき息子は沙上にはかなき城を築き
父はこなたの陽炎に坐してものを思へり

 

漁撈の網はとほく干され
貨物列車は岬の鼻をめぐり走れり

 

ああ五月の空はかくも靑く
はた海は空よりもさらに靑くたたへたり

 

しかしてああ いぢらしきこれら生あるものの上に
かの海風は 鰯雲は高く來るかな……

 

しかしてああ げにわれらの運命も
かの高きより來るかな……

 

されば彼ら 日もすがらかしこに彼らの圓を描き
されば彼ら 日もすがら彼らの謎を美しくせんとす

 

彼らいづこより來しやを知らず
彼らまたいづこへ去るやを知らない

 

かの灰色の鷗らも
我らと異る仲間ではない

 

 

三好達治「灰色の鷗」『一點鐘』(S16.10刊)