老いらくの身をはるばると
このあしたわがふるさとゆ
ははそはの母はきたまふ
おんくるまうまやにつかせ
たまふにはいとまありけり
われひとりなぎさにいでて
冬の日のほのかほのかに
あたたかき濱のおほなみ
ひるがへる見つつたのしも
眞鶴の崎の巖が根
大島のはるけき烟
見はるかしゐつつたのしも
あはれやないつかその子も
皺だたみ老いんとすらん
まづしかる旅のすみかに
ははそはの母はおとなひ
たまふなり師走のあした
くさも木もおほかた枯れて
そら靑きをちの國ぐに
山川のはるけきをへて
おんくるまいましきたまふ
さねさし相模の小野に
おんくるま走らひきたる
ころをしも待ちつつたのし
三好達治「老いらくの身をはるばると」『艸千里拾遺』(『一點鐘: 詩集』S19.4刊)