「汝の薪をはこべ」『艸千里』
春逝き
夏去り
今は秋 その秋の
はやく半ばを過ぎたるかな
耳かたむけよ
耳かたむけよ
近づくものの聲はあり
窓に
訪なふ客の聲はあり
落葉の上を步みくる冬の跫音
ああ汝
汝の薪をはこべ
今は秋 その秋の
賢くも汝の薪をとりいれよ
ああ汝 汝の薪を取りいれよ
冬近し かなた
遠き地平を見はるかせ
いまはや冬の日はまぢかに逼れり
やがて雪ふらむ
汝の國に雪ふらむ
きびしき冬の日のためには
爐をきれ 竈をきづけ
孤獨なる 孤獨なる 汝の
薪をはこべ
ああ汝
汝の薪をはこべ
日はなほしばし野の末に
ものの花さく今は秋
その秋の林にいたり
汝の薪をとりいれよ
ああ汝 汝の冬の用意をせよ
三好達治「汝の薪をはこべ」『艸千里』(S14.7刊)