三好達治bot(全文)

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「自画像」『霾』

   ★

 

ここに會した
翼ある空のルンペン

 

僕は無料宿泊所だ
天使がくる 梟がやつてくる

 

僕らは君らに切符をあげる
君らは眠るがいい

 

朝の子たち
夜の子たち

 

君らみな
空腹のハンモツクに搖られて

 

   ★

 

太陽の下 水の上
煙の頸環を風にくれて

 

僕は川波を蹴つて進む
僕はポンポン蒸氣だ

 

二錢銅貨よりも古ぼけた
僕は一錢蒸氣だ

 

人は橋に立つて
僕を眺めて微笑する

 

輪を描いて
僕がしなをつくつて見せるから

 

搖れる川波
寄る年波

 

けれども僕は快活だ
このエンジンはまだ𢌞る

 

「その感情をすて給へ
乞ふ 僕を憐れむ勿れ」

 

   ★

 

蝶がくる
春の日に

 

一人の男が息絕える
いま身まかると知りながら

 

一人の詩人がつひにこときれる
窓を見ながら

 

その窓に蝶がきて
舞ひ 舞ふ 晝

 

 

三好達治「自畫像」『霾』(S14.4刊『春の岬: 詩集』所収)