「自画像」『霾』
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ここに會した
翼ある空のルンペン
僕は無料宿泊所だ
天使がくる 梟がやつてくる
僕らは君らに切符をあげる
君らは眠るがいい
朝の子たち
夜の子たち
君らみな
空腹のハンモツクに搖られて
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太陽の下 水の上
煙の頸環を風にくれて
僕は川波を蹴つて進む
僕はポンポン蒸氣だ
二錢銅貨よりも古ぼけた
僕は一錢蒸氣だ
人は橋に立つて
僕を眺めて微笑する
輪を描いて
僕がしなをつくつて見せるから
搖れる川波
寄る年波
けれども僕は快活だ
このエンジンはまだ𢌞る
「その感情をすて給へ
乞ふ 僕を憐れむ勿れ」
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蝶がくる
春の日に
一人の男が息絕える
いま身まかると知りながら
一人の詩人がつひにこときれる
窓を見ながら
その窓に蝶がきて
舞ひ 舞ふ 晝
三好達治「自畫像」『霾』(S14.4刊『春の岬: 詩集』所収)