三好達治bot(全文)

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「荒天薄暮」『故鄕の花』

天荒れて日暮れ沖に扁舟を見ず餘光散じ消えかの姿貧しき燈臺に淡紅の瞳かなしく點じたり晩鴉波にひくくみな聲なく飛びあわただしく羽(はね)うちいそぐさは何に逐はるるものぞ慘たる薄暮の遠景にされどなほ塒あるものは幸なるかな天また昏く雲また疾し彼方…

「なれは旅人」『故鄕の花』

幾山河(いくやまかは)越路(こしぢ)のはてのさくら花か靑き海を松が枝にかへり花さく日の空に小鳥は鳴けど音はさびし――音はさみしなれは旅人旅人よ樹かげにいこへこはこれなれが國ならず旅人よなべてのことをよそに見てつめたき石にもいこへかしまことに…

「朝はゆめむ」『故鄕の花』

ところもしらぬやまざとにひまもなくさくらのはなのちりいそぐをいろあはきさくらのはなのひまもなくななめにちるをあさはゆめむさくらのはなのただはらはらとちりいそぐをはらはらとはなはひそかにいきづきてかぜにみだれてながるるをやみてまたそのはなの…

「願はくば」『花筐』

願はくばわがおくつきに植ゑたまへ梨の木幾株(いくしゆ) 春はその白き花さき秋はその甘き實みのる 下かげに眠れる人のあはれなる命はとふな いつよりかわれがひと世の風流はこの木にまなぶ それさへや人につぐべきことわりのなきをあざみぞ いかばかりふか…

「身は老いて」『花筐』

身は老いて憂ひは深し 事しげく言はみじかし かくばかりながく忍びしこころをば誰に語らん 冬の夜の暗き巷をあてどなくさまよふのみぞ すべもなし今はせんなし わがふるき怒りは眼ざめあたらしき泪はながる すべもなき心のためにあがなひし水仙の花 外套の袖…

「人の世よりも」『花筺』

人の世よりもやや高き梢に咲ける桐の花そは誰人のうれひとやありとしもなき風にさへ散りてながるる散りてながるる桐の花藥の香ほどほろにがいほろにがい香に汗ばみてやがては土におとろふるあはれはふかい桐の花ああ桐の花なにか思ひにあまる花 そはこの花の…

「明日は死ぬ人のやうにも」『花筐』

明日は死ぬ人のやうにも思ひつめてわがゆきかよひし山路よ樫鳥一羽とぶでない深い空しい黃昏の溪間ああもうそこを樵夫も獵師も炭燒も今はかよふ時刻でない深い溪間その溪の向ふにのつてりと橫はる枯艸山その巓の枯れ枯れの雜木林雜木林に落ちかかる仄かに銳…

「明日は死ぬ人のやうにも」『花筐』

明日は死ぬ人のやうにも思ひつめてわがゆきかよひし山路よ樫鳥一羽とぶでない深い空しい黃昏の溪間ああもうそこを樵夫も獵師も炭燒も今はかよふ時刻でない深い溪間その溪の向ふにのつてりと橫はる枯艸山その巓の枯れ枯れの雜木林雜木林に落ちかかる仄かに銳…

「遠き山見ゆ」『花筐』

遠き山見ゆ遠き山見ゆほのかなる霞のうへにはるかにねむる遠き山遠き山山いま冬の日のあたたかきわれも山路を降りつつ見はるかすなりかのはるかなる靑き山山いづれの國の高山か麓は消えて高嶺のみ靑くけむれるかの山山彼方に遠き山は見ゆ彼方に遠き山は見ゆ…

「曲浦吟」『覊旅十歲』

鷄鳴のこゑはるかなるわがすまふ町はかなたに波の上に夜明けそめたり炊煙は白くたたずみ靑霞み木の間になびくをちかたは風起こるらしたまくしげ函嶺の山によべの雲やうやく動く勢ひのはやからんとすなか空にとぶ鷗どり川口にしら波たちて橋わたる三輪車見ゆ…

「淺春偶語」『一點鐘』

友よ われら二十年も詩うたを書いて已にわれらの生涯も こんなに年をとつてしまつた 友よ 詩のさかえぬ國にあつてわれらながく貧しい詩を書きつづけた 孤獨や失意や貧乏や 日々に消え去る空想やああながく われら二十年もそれをうたつた われらは辛抱づよか…

「南の海」『艸千里』

南の海のはなれ小島に色淡き梅花はや兩三枝開きそめたり まだ萠えぬ黃なる芝生に 古き椅子ありわれひとり腰をおろさん…… 遠くふくらみたる海原と空高く登りつめたる太陽と 土赭きひとすぢ路と彼方の村と われはこのかた岡に いま晝は色こまやかに描かれたる…

「十一月の視野に於て」『測量船』

倫理の矢に命あたつて殞ちる倫理の小禽。風景の上に忍耐されるそのフラット・スピン! 小禽は叫ぶ。否、否、否。私は、私から墮ちる血を私の血とは認めない。否! しかし、倫理の矢に命つて殞ちる倫理の小禽よ! ★ 雲は私に吿げる。――見よ! 見よ! 如何に私…

「草の上」『測量船』

★ 野原に出て坐つてゐると、私はあなたを待つてゐる。それはさうではないのだが、 たしかな約束でもしたやうに、私はあなたを待つてゐる。それはさうではないのだが、 野原に出て坐つてゐると、私はあなたを待つてゐる。さうして日影は移るのだが―― ★ かなか…

「落葉」『測量船』

秋はすつかり落葉になつてその鮮やかな反射が林の夕暮を明るく染めてゐる。私は靑い流れを隔てて一人の少女が薄の間の細道に折れてゆくのを見る。そこで彼女はぱつちりと黑い蝙蝠傘をひらく。私は流にそつて行く。私は橋の袂にたつ。橋の名は「こころの橇」…

「二重の眺望」『駱駝の瘤にまたがつて』

ああこの夏のまつ晝まのあまりに明るい炎天の遠い方角えたいの知れない遠くの方から聞こえてくるもの音と靜けさとさみしく流れる煙のやうな一つのこゑをきいてゐるのは私の影そこらあたりの燃えたつやうな岱赭の丘を眺めてゐるのは 私とさうして私の影ああこ…

「薄野」『駱駝の瘤にまたがつて』

薄の枯れたうらさみしい野みちだむかふの方に堤防があつて 盗びとのやうにいやな奴がそのくせおれのなつかしい河が流れてゐる(それはもうさういふ羽目の辻占だ……)さうしてそいつはいつもかもしのび音に堤防の下を流れてゐるそこにはつまらぬ舟が浮んでつま…

「鴉」『駱駝の瘤にまたがつて』

遠い國の船つきでおれは五年も暮してきたおれはいつも獨りぽつちでさびしい窓にぼんやりもたれて暮してゐたああそのながい間ぢゆうおれは何を見てゐただらう鴉 鴉 鴉 あのいんきな鬱陶しい仲間たち今日も思ひ出すのは奴らのことばかりだあのがつがつとした奴…

「北の國では」『日光月光集』

北の國ではもう秋だあかのまんまの つゆくさの 鴉揚羽の八月は秋は夏のをはりですゆくへも知らぬ人のかずかつて砂上にありし影それらもやがて日が暮れて鴉のやうに飛びさつた去年の墓に隣して一つの夏はまた一つ憂ひの墓をたてました何というさみしい書割り…

「門に客あり」『日光月光集』

門に客あり先生は宅に在りやと問はすかな昨日も鮒の子を賣ると窓をたたきし村人のさこそは我れをよばひたれ世はそらごとのつねなればいつかは耳にききなれてよばふにまかれうべなれどまことは感のなからめや老の眼鏡に書を讀むを先生などと推(すゐ)すらめ…

「駱駝の瘤にまたがつて」『駱駝の瘤にまたがつて』

えたいのしれない駱駝の背中にゆさぶられておれは地球のむかふからやつてきた旅人だ病氣あがりの三日月が砂丘の上に落ちかかるそんな天幕てんとの間からおれはふらふらやつてきた仲間の一人だ何といふ目あてもなしにふらふらそこらをうろついてきた育ちのわ…

「靜夜」『霾』

稀れには、實際稀れにはこんな靜かな日もある――。 空にはちようど頭上のあたりに、翳りを帶びた靑い星が二つ三つ、雲の斷え間に覗いてゐる、もちろん月はない。沖の方は大きな闇。いつものところにいつもの廻轉燈臺が遙かに點滅してゐるのが、かういふ時には…

「とある小徑」『霾』

そこには甍のゆるんだ低い築地がつづいてゐる。そのむかうに枝ぶりのいい柿の木が一本たつてゐる。それは晝すぎらしい時刻の、とある小徑のとある一劃である。――はてどこだつたかしら、どこだつただらう、とにかくこんなにはつきり記憶に殘つてゐるのが不思…

「故き胡弓」『測量船拾遺』

秋なりふるき胡弓を彈かましか 秋なり 秋なりいとちひさなる草の實も 日ねもす秋を飛びゆくかな 今し季節の船出する湊の鐘を聽けよかし 空に銅羅は叩かれて落ち葉は谿をわたりくる 秋なり 秋なりふるき胡弓を搔い鳴らせ 何の情緒かとどまらんあわただしくも…

「王に別るる伶人のうた」『測量船拾遺』

空に舞ひ舞ひのぼり噴水はなげきかなしみひとびとうなじたれ花をしくなり 哀傷の日なたに花はちり花はちり見たまへかし王がいでましのすがたなり 風に更紗のかけぎぬふかせゆるやかに象があゆめばみ座ゆれゆれ光り金銀の鈴がなるなり 象の鼻をりふしに空にあ…

「パン」『測量船』

パンをつれて、愛犬のパンザをつれて私は曇り日の海へ行く パン、脚の短い私のサンチョパンザよどうしたんだ、どうしてそんなに嚏くさめをするんだ パン、これが海だ海がお前に樂しいか、それとも情けないのか パン、海と私とは肖てゐるか肖てゐると思ふなら…

「峠」『測量船』

私は峠に坐つてゐた。 名もない小さなその峠はまつたく雜木と萱草の繁みに覆ひかくされてゐた。××ニ至ル二里半の道標も、やつと一本の煙草を喫ひをはつてから叢の中に見出されたほど。 私の目ざして行かうとする漁村の人々は、昔は每朝この峠を越えて魚を賣…

「落葉やんで」『測量船』

雌鷄が土を搔く、土を搔いては一步すさつて、ちよつと小頸を傾ける。時雨模樣に曇つた空へ、雄鷄が叫びをあげる。下女は庭の落葉を掃き集めて、白いエプロンの、よく働く下女だ、それに火を放つ。私の部屋は、廊下の前に藤棚があつて、晝も薄暗い。ときどき…

「海は今朝」『砂の砦』

海は今朝砂の上にきて笑ふ巖のはなから月の出にゆうべまた若い女が身を投げた海は今朝砂の上にきて笑ふひと晩暈(かさ)をきてござつたお月さまは西の空に無慈悲な海よ薄情者よけれどもやさしくなつかしい今朝の海よ姿のない木魂のやうな夏の日の通り魔よ紺…

「馬鹿の花」『砂の砦』

花の名を馬鹿の花よと童(わらは)べの問へばこたへし紫の花八月の火の砂に咲く馬鹿の花馬鹿の花三里濱三里の砂の丘つづきこの花咲きて海どりの白きむらがり古志(こし)の海日すがらここにとどろけり朱きふどしの蜑の子ら松の林にあらはれてわめきさざめき…

「春の日の感想」『砂の砦』

庭に出て樂々と膝をのばさう艸の上にでて疲れた脚をなげださうながいながい冬の日の後に來たこのゆるやかな感情この暖かい陽ざしこの新らしい季節の贈ものをからだいつぱいいそいでからだいつぱいにうけとらうさうしてこのうち烟つた野山の間にわれらの心を…

「宵宮」『砂の砦』

星が出た枯木の山のいただきに星が一つ今日はもうそこで終つた今日はもう小鳥のうたふ歌も終つた明日の新らしい太陽の外もう一度誰が彼らをうたはせよう彼らは谷間の藪にかへつた彼らはその塒にかへつた栗鼠や兎やももんがや夜出て働くものの外われらの仲間…

「砂の砦」『砂の砦』

私のうたは砂の砦だ海が來てやさしい波の一打ちでくづしてしまふ 私のうたは砂の砦だ海が來てやさしい波の一打ちでくづしてしまふ こりずまにそれでもまた私は築く私は築く私のうたは砂の砦だ 無限の海にむかつて築くこの砦は崩れ易いもとより崩れ易い砦だ …

「赤き落日にむかひて」『砂の砦』

赤き落日にむかひてわれは路なき砂をくだりひとり砂丘を越えてゆく遠き日ごろもかかりしに人の世のげにけながくも暮れてゆくかかる身空やよしや頰(ほ)の風にむかひて熱き日もいまははや泪おちず冬の日の雲は彼方にみな低く沈みあつまりこごりたり淡々し 消…

「竹の靑さ」『砂の砦』

竹の靑さは身に透る竹の靑さよ骨にも透るああ竹竹靑く煙つた大竹藪に鳩が一羽舞ひたつた夢のやうに羽音もなく靑い煙にかすんで飛んだそのあとをまた一羽はたはたと斜に空へ拔け去つた日暮れどきの竹藪は靜かな海の底のやうだかうして私は爪先のぼりに丘の小…

「淚をぬぐつて働かう」『砂の砦』

——丙戊歲首に みんなで希望をとりもどして淚をぬぐつて働かう忘れがたい悲しみは忘れがたいままにしておかう苦しい心は苦しいままにけれどもその心を今日は一たび寛がうみんなで元氣をとりもどして淚をぬぐつて働かう 最も惡い運命の颱風の眼は過ぎ去つた最…

「氷の季節」『砂の砦』

今は苦しい時だ今はもつとも苦しい時だ長い激しい戰さのあとで四方の兵はみな敗れ家は燒け船は沈み山林も田野も蕪れてこの窮乏の時を迎へる七千萬のわれわれは一人一人に無量の悲痛を懷いてゐる怒りや失意や絕望やとりかへしのつかない悲しい別離や痛ましい…

「橫笛」『故鄕の花』

幼き子らが月日ごろなにの愁ひをくれなゐの唇(くち)もきよらにつれづれと吹きならひけんいまほのぐらきものかげのかばかり塵にうづもれてふしまろびたる橫笛昨日子らは晴衣きて南のかたに旅だちぬ――かくはえうなく忘られて朱(あけ)もふりたる歌口をあり…

「海邊暮唱」『故鄕の花』

彼方に大いなる船見ゆ敵國の船見ゆいえいえあれは雲です彼方に靑き島見ゆ島二つ見ゆいえいえあれは雲です ひと日暮れんとして悲しみ疲れたるわれらが心の上にいま大いなる蓋(きぬがさ) 夕燒の空は赤く燃えてかかりたり深き憂愁と激しき勞役との一日(いち…

「歸らぬ日遠い昔」『故鄕の花』

歸らぬ日遠い昔歸らぬ日遠い昔(聽くがいい そらまた夜の遠くで木深い遠くの方で鐘がなる)遠い昔だ何も彼も雁も鳩も木兎もみんな行方(ゆきがた)しれずだよあの子もどこでどうしたやらつり眼狐の晝行燈病身のいつも無口な子だつたが靑い顏していぢつけて霜…

「池のほとりに柿の木あり」『故鄕の花』

池のほとりに柿の木あり幹かたむきて水ふりし堤のうへをゆきかよふ路もなつかし艸靑き小徑の彼方松高く築地(ついぢ)は低き學び舍やにわれは年ごろ何ごとを學びたりけん今は記(おぼ)えずなべては時の死の箒(ははき)ははき消しゆくをちかたのあとさきに…

「島崎藤村先生の新墓に詣づ」『故鄕の花』

しづかなる秋の朝なり鵯どりら空によびかひ林より林にわたるしづかなる秋の朝なり百舌はまたさらに高音を張りて啼け世はひそかなりこよろぎの濱のおほ波ゆるやかにくづるるさへやここにして聽けばかそけしこの庭にいま陽ざしおつ斑々(はんはん)とかくはさ…

「さくらしま山」『故鄕の花』

いるかとぶ春の海原しぐれふりやがてかくろふさくらしま山 九天ゆ直下す三機あなさやけさくらしま山雲のかげ見ゆ いくさある海のはてよりかへりこしいくさぶねはつさくらしま山 ○ ふたくさのこほろぎのこゑおこるなり庭の畑に日のてるしづか 海靑し小松林の…

「時雨の宿」『故鄕の花』

かすかなるかすかなる聲はすぐはらはらと今ふりいでし雨の音ひそかに軒を走る夜時雨ふるかかる夜頃を音もひくく渡るは何の鳥ならんかすかなるかすかなる聲はすぐ 聲はかたみに呼びかはしちちとのみただひくくかすかにかたみにつまをたのむらんこたへかわして…

「出發」『駱駝の瘤にまたがつて』

まんとの袖をひるがへし、夕陽の赤い驛前をいそぐ時、海のやうに襲つてくる一つの感情は甘くして、またその潮水のやうに苦がい。人はみな己れの影をおふてゆく、このひからびた砂礫の上に、彼方に遠く疲れた雄鷄の鳴く日暮れ時、私の見るのは一つの印象、谿…

「涕淚行」『干戈永言』

……………………敵壘下咫尺の壕に肉薄し夜を徹したり拂曉に突撃せんとす……かかる時四もは寂寞星しげき阜(つかさ)のかげに君が書を讀む兵ありと君やよし詩人(うたびと)の想(そう)に富ますも得ておもひ知りたまふまじ君が書はわが行嚢(かうなう)に門出の日負…

「蒼穹賦」『干戈永言』

八月二十日敵機九州北邉を侵す、わが邀擊機中敵機と高空に相衝擊して玉碎するもの三、操縦者山田野邉高木みな紅顔の靑年のみ、感に耐へず一詩を賦す。 嗚呼父の國母の國わが大君のしろしめす日の本の空この大空に戰ひて死ぬをほまれと靑雲のたたなはる上日一…

「リラの花匂ふ朝鮮」『干戈永言』

リラの花匂ふ朝鮮ポプラの並木高くはるかに灰色の鶴黃昏の川水にたたずむ朝鮮白衣の人彼方を步み艸靑く古墳のつかさつかさを覆へる丘べ松の根方に黃なる牛繫ぎ放たれてわがゆく小徑をさまたげし旅の思出古陵癈寺斷礎龜跌城あとに蒲公英咲き鵲はきみしき電柱…

「窗下の海」『干戈永言』

一 北海波黑く冰霰屡到る客愁また暗澹として何事か呼ばんと欲し更にまた緘默す嗚呼人(ひと)生を必せず死を必するの時白鷗烈風に啼く人事他なしただ心機一瞬を尚ぶべし 二 心機ただ一瞬を尚ぶべしたまたま我は家鄕をすて北海の濱に流寓す骨枯れ肉はたゆけれ…

「まつ靑な五月の空だ」『干戈永言』

まつ靑な五月の空だまつ靑な五月の海だ南へ南へ ぽつかり浮かんだ雲がいくつ しづかに南へ流れていくその下で海豚(いるか)のむれが踊つてゐる僕らはみんな砂濱にでて胸を張つて遠くを眺めた僕らは南の方の遠い水平線をみつめてゐた僕らはなにか大きな聲で…