三好達治bot(全文)

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『霾』

「静夜」『霾』

稀れには、實際稀れにはこんな靜かな日もある――。 空にはちようど頭上のあたりに、翳りを帶びた靑い星が二つ三つ、雲の斷え間に覗いてゐる、もちろん月はない。沖の方は大きな闇。いつものところにいつもの廻轉燈臺が遙かに點滅してゐるのが、かういふ時には…

「とある小徑」『霾』

そこには甍のゆるんだ低い築地がつづいてゐる。そのむかうに枝ぶりのいい柿の木が一本たつてゐる。それは晝すぎらしい時刻の、とある小徑のとある一劃である。――はてどこだつたかしら、どこだつただらう、とにかくこんなにはつきり記憶に殘つてゐるのが不思…

「煙子霞子」『霾』

壁には新らしい繪を揭げ甕には新らしい花を挿し窗には新らしい鳥籠を吊るしたこれでいい さあこれでいいではないか今日一日私はここにおちつかう今日一日?ここはお前の住居ではないか私の心よお前の棲り木を愛するがいいお前の小鳥と同じやうに そこでお前…

「大阿蘇」『霾』

雨の中に馬がたつてゐる一頭二頭仔馬をまじへた馬の群れが 雨の中にたつてゐる雨は蕭蕭と降つてゐる馬は草を食べてゐる尻尾も背中も鬣も ぐつしよりと濡れそぼつて彼らは草をたべてゐる草をたべてゐるあるものはまた草もたべずに きよとんとしてうなじを垂れ…

「自画像」『霾』

★ ここに會した翼ある空のルンペン 僕は無料宿泊所だ天使がくる 梟がやつてくる 僕らは君らに切符をあげる君らは眠るがいい 朝の子たち夜の子たち 君らみな空腹のハンモツクに搖られて ★ 太陽の下 水の上煙の頸環を風にくれて 僕は川波を蹴つて進む僕はポン…

「鴉」『霾』

一日、私は窓外の築地の甍に、索索たる彼の跫音を聽いた。塵に曇つた玻璃窓の眞近に、彼は一羽、さも大事の使者のやうに注意深く、けれども何の臆面もなく降りたつてゐた。さも惶だしげに、けれどもまたさも所在なげに、彼は左右を顧み、わづかに場所を移り…