『覊旅十歲』
鷄鳴のこゑはるかなるわがすまふ町はかなたに波の上に夜明けそめたり炊煙は白くたたずみ靑霞み木の間になびくをちかたは風起こるらしたまくしげ函嶺の山によべの雲やうやく動く勢ひのはやからんとすなか空にとぶ鷗どり川口にしら波たちて橋わたる三輪車見ゆ…
湖(うみ)の上へに朝ぎりたちていづこかに雉子(きぎす)しばなく みづちかきしもとの丘はうら枯れしままに霞めり われ十歲旅をさまよひかかる日の春にまたあふ そはたえて消息をだに知りがたきをちかたびとの おんかげを山川の辺へにたづねつつ経へたる國…