三好達治bot(全文)

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『艸千里拾遺』

「かつてわが悲しみは」『艸千里拾遺』

かつてわが悲しみは かの丘のほとりにいこへりかつてわが悲しみは かの丘のほとりにいこへり 五月またみどりはふかく 見よかなたに白き鳥のとぶあり おのが身ははやく老いしかこの日また家にいそぐや あてどなき旅のひと日の夕暮れの汽車のまどべに かの丘に…

「老いらくの身をはるばると」『艸千里拾遺』

老いらくの身をはるばるとこのあしたわがふるさとゆははそはの母はきたまふ おんくるまうまやにつかせたまふにはいとまありけりわれひとりなぎさにいでて 冬の日のほのかほのかにあたたかき濱のおほなみひるがへる見つつたのしも 眞鶴の崎の巖が根大島のはる…

「日まはり」『艸千里拾遺』

橋の袂の日まはり床屋の裏の日まはり水車小屋の日まはり交番の陰の日まはり頽れた築地の上に聳えた路ばたの墓地の日まはり丘の上の洒落た一つ家そのまた上の 女學校の 寄宿舎の庭の日まはりああ日まはり日まはりそれは旺んな季節の洪水七月 この海邊の町を不…

「海よ」『艸千里拾遺』

門を閉ぢよ 心を開け……それで私は 表を閉めて裏の垣根を越えてきた蜜柑畠の間を拔けて海よ お前の渚にかうして私は一人できたああ陽炎のもえる初夏の小徑眩めくるめく砂の上で海よ 私は何を考へよう 思出のやうにうすぐもつて藍鼠色あゐねずいろにぼんやりし…