『朝菜集』
ちかごろ書肆のすすめにより、おのれまたをりからおもふところいささかありて、この書ひとまきをあみぬ。なづけて朝菜集といふ。いにしへのあまの子らが、あさごとに磯菜つみけんなりはひのごとく、おのれまたとしつき飢ゑ渇きたるおのれがこころひとつをや…
幽愁の鬱塊懷疑と厭世との 思索と彷徨とのあなたのあの懷かしい人格はなま溫かい溶岩ラヴアのやうな不思議な音樂そのままの不朽の凝晶體――あああの灰色の誰人の手にも捉へるすべのない影ああ實に あなたはその影のやうに飄々としていつもうらぶれた淋しい裏…
老松亭々凾嶺蒼々柑子山かうじやま こなたにつきて麥畑かなたに遠く工場の白き煙突二つ三つそそり立つあたりの聚落天高く海はか靑し沖つ波はるかのかたにかすめるは大島利島としま 邉つ浪は浦囘いつぱい弓なりに碎けて白しこれはこれおのれいくとせ住みなれ…