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三好達治bot(全文)

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『故鄕の花』

「橫笛」『故鄕の花』

幼き子らが月日ごろなにの愁ひをくれなゐの唇(くち)もきよらにつれづれと吹きならひけんいまほのぐらきものかげのかばかり塵にうづもれてふしまろびたる橫笛昨日子らは晴衣きて南のかたに旅だちぬ――かくはえうなく忘られて朱(あけ)もふりたる歌口をあり…

「海邊暮唱」『故鄕の花』

彼方に大いなる船見ゆ敵國の船見ゆいえいえあれは雲です彼方に靑き島見ゆ島二つ見ゆいえいえあれは雲です ひと日暮れんとして悲しみ疲れたるわれらが心の上にいま大いなる天蓋(きぬがさ) 夕燒の空は赤く燃えてかかりたり深き憂愁と激しき勞役との一日(い…

「歸らぬ日遠い昔」『故鄕の花』

歸らぬ日遠い昔歸らぬ日遠い昔(聽くがいい そらまた夜の遠くで木深い遠くの方で梟が啼く)遠い昔だ何も彼も雁(がん)も鳩も木兎もみんな行方(ゆきがた)しれずだよあの子もどこでどうしたやらつり眼狐の晝行燈病身のいつも無口な子だつたが靑い顏していぢ…

「池のほとりに柿の木あり」『故鄕の花』

池のほとりに柿の木あり幹かたむきて水ふりし堤のうへをゆきかよふ路もなつかし艸靑き小徑の彼方松高く築地(ついぢ)は低き學び舍やにわれは年ごろ何ごとを學びたりけん今は記(おぼ)えずなべては時の死の箒(ははき)ははき消しゆくをちかたのあとさきに…

「島崎藤村先生の新墓に詣づ」『故鄕の花』

しづかなる秋の朝なり鵯どりら空によびかひ林より林にわたるしづかなる秋の朝なり百舌はまたさらに高音を張りて啼け世はひそかなりこよろぎの濱のおほ波ゆるやかにくづるるさへやここにして聽けばかそけしこの庭にいま陽ざしおつ斑々(はんはん)とかくはさ…

「さくらしま山」『故鄕の花』

いるかとぶ春の海原しぐれふりやがてかくろふさくらしま山 九天ゆ直下す三機あなさやけさくらしま山雲のかげ見ゆ いくさある海のはてよりかへりこしいくさぶねはつさくらしま山 ○ ふたくさのこほろぎのこゑおこるなり庭の畑に日のてるしづか 海靑し小松林の…

「時雨の宿」『故鄕の花』

かすかなるかすかなる聲はすぐはらはらと今ふりいでし雨の音ひそかに軒を走る夜時雨ふるかかる夜頃(よごろ)を音(ね)もひくく渡るは何の鳥ならんかすかなるかすかなる聲はすぐ 聲はかたみに呼びかはしちちとのみただひくくかすかにかたみにつまをたのむら…