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三好達治bot(全文)

twitterで運転中の三好達治bot補完用ブログです。bot及びブログについては「三好達治botについて」をご覧ください

『一點鐘』

「閑雅な午前」『一點鐘』

ごらん まだこの枯木のままの高い欅の梢の方をその梢の細いこまかな小枝の網目の先先にもはやふつくらと季節のいのちは湧きあがつてまるで息をこらして靜かにしてゐる子供達の群れのやうにそのまだ眼にもとまらぬ小さな木の芽の群衆うはお互に肱をつつきあつ…

「南の海」『一點鐘』

ひと日わがゆくりなく故紙のひまより見出でたる一片の幼き文字、南の海と題せり、いづれの年ごろしたためしものとも今はおぼえね、その嘆かひなほ今日の日のわがものにかよひて多く異ならず覺ゆ、あはれわがさがやとて自ら憐れみてこの集の跋に代えんとす―― …

「灰色の鷗」『一點鐘』

彼らいづこより來しやを知らず彼らまたいづこへ去るやを知らない かの灰色の鷗らも我らと異る仲間ではない いま五月の空はかくも靑くいま日まわりの花は高く垣根に咲きいでた 東してここに來る船あり 西して遠く去る船あり いとけなき息子は沙上にはかなき城…

「毀れた窓」『一點鐘』

廢屋のこはれた窓から五月の海が見えてゐる 硝子のない硝子戸越しにそいつが素的なまつ晝間だ 波は一日ながれてゐるその額緣にポンポン船がやつてくる 灰色の鷗もそこに集つて何かしばらく解けない謎を解いてゐる ぽつかり一つそんな時鯨がそこに浮いたつて…

「毀れた窓」『一點鐘』

廢屋のこはれた窓から五月の海が見えてゐる 硝子のない硝子戸越しにそいつが素的なまつ晝間だ 波は一日ながれてゐるその額緣にポンポン船がやつてくる 灰色の鷗もそこに集つて何かしばらく解けない謎を解いてゐる ぽつかり一つそんな時鯨がそこに浮いたつて…

「いつしかにひさしわが旅」『一點鐘』

たまくしげ凾根の山のこなたなる足柄の山 をさなき日うたにうたひしその山のふもとの出湯(でゆ)に ゆくりなくわが來たり臥ふす春の日をいく日(ひ)へにけむ 朝な朝(さ)ななくきぎすはもけたたまし谷をとよもし はたたくや木もれ陽のうち つと見ればつま…

「鷗どり」『一點鐘』

ああかの烈風のふきすさぶ砂丘の空にとぶ鷗沖べをわたる船もないさみしい浦のこの砂濱にとぶ鷗(かつて私も彼らのやうなものであつた) かぐろい波の起き伏しするああこのさみしい國のはて… …季節にはやい烈風にもまれもまれて何をもとめてとぶ鷗(かつて私…

「一點鐘二點鐘」『一點鐘』

靜かだつた靜かな夜だつた時折りにはかに風が吹いたその風は そのまま遠くへ吹きすぎた一二瞬の後 いつそう靜かになつたさうして夜が更けたそんな小さな旋じ風も その後谿間を走らない…… 一時が鳴つた二時が鳴つた一世紀の半ばを生きた 顏の黄ばんだ老人の …

「冬の日」『一點鐘』

――慶州佛國寺畔にて ああ智慧は かかる靜かな冬の日にそれはふと思ひがけない時に来る人影の絕えた境に山林にたとへばかかる精舍の庭に前觸れもなくそれが汝の前に來てかかる時 ささやく言葉に信をおけ「靜かな眼 平和な心 その外ほかに何の寶が世にあらう」…

「鷄林口誦」『一點鐘』

たくぶすま新羅の王の陵(みささぎ)に秋の日はいまうららかなり いづこにか鷄(とり)の聲はるかに聞こえかなたなる農家に衣(きぬ)を擣つ音す 路とほくこし旅びとはここに憩はん 芝艸はなほ綠なり 綿の畑の綿の花小徑径の奧に啼くいとど 松の梢をわたる風…