三好達治bot(全文)

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2017-07-08から1日間の記事一覧

「灰󠄁が降る」『百たびののち』

灰󠄁が降る灰󠄁が降る成󠄁層圈から灰󠄁が降る 灰󠄁が降る灰󠄁が降る世界一列灰󠄁が降る 北極熊もペンギンも椰子も菫も鶯も 知らぬが佛でゐるうちに世界一列店(たな)だてだ 一つの胡桃(くるみ)をわけあつて彼らが何をするだらう 死の總計の灰󠄁をまくとんだ花󠄁咲󠄁…

「碧落城」『百たびののち』

碧落(へきらく)に城あり層々風に鳴る邱阜(きうふ)うやうやしく跪(ひざま)づき長流はるかに廻(めぐ)る百世舊(きう)のごとし景を踐(ふ)んで人事勿忙の嘆(たん)あり歲晩淡紅の花また折からや草屋の墻根(かきね)に散りしくを見る誰ひとか煙霞(…

「閑窓一盞」『百たびののち』

憐むべし糊口に穢れたれば一盞(いつさん)はまづわが膓(はら)わたにそそぐべしよき友らおほく地下にあり時に彼らを憶ふまた一盞をそそぐべしわが心つめたき石に似たれども世に憤りなきにしもあらずまた一盞をそそぐべし露消󠄁えて天晴るわが庭󠄁の破れし甕…

「風の中に」『百たびののち』

その朝の出來事だつたそれは歌ひをはつたからわれらはじめて沈默をきいたその朝小鳥は死んだからむなしい窓の鳥籠にわれらはじめてそれをきいた風が來てわれらをとらへたわれら耳をかたむけたわれら風の中に永遠をきいた 風の波紋はひろがつて雛げしがそこに…

「故郷の柳」『百たびののち』

草におかれてうつぶせに大きな靑い吊鐘が橋のたもとにありましたどういふわけだか知りません 腹のところのうす赤い僕らは鮠(はや)を釣りました提(ひさ)げに入れるとすぐに死ぬそれははかない魚でした 動物園の前でした動物園では虎がなくライオンがなく…

「砂上」『百たびののち』

むしやうにじやれつく仔羊どもにとりまかれてお前のからだのはんぶんもある重たい乳房を含ませながらうるさげに不精げに退屈げにけれども氣ながに――お前はお前で何かを遠くに眺めてゐる牝羊よごれてやつれていくらか老人めいて足もともたよりなげに考へごと…

「松のふぐり火」『百たびののち』

この朝(あした)拾ひあつめし松ふぐりこの夕べ飯(いひ)かしぐ焰となるよ うつらうつら竈におこるこゑをきき聽くとなく昨日の海を今日もきく うつけびと袖も袂も赤々とくらき厨にゐたりけり ありとなく消えて飛ぶ丘の上の一つ家に立つけむり 遠(をち)か…