三好達治bot(全文)

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2017-06-23から1日間の記事一覧

「けれども情緒は」『駱駝の瘤にまたがつて』

けれども情󠄁緖は春のやうだ一人の老人がかう呟いた燒け野つ原の砌みぎりの上で孤獨な膝をだいてゐる一つの運命がさう呟いた妻もなく家庭もなく隣人もなく名譽も希望も職業も 歸るべき故鄕もなく貧しい襤褸らんるにつつまれて 語られ終つたわびしい一つの物語…

「なつかしい斜面」『駱駝の瘤にまたがつて』

なつかしい斜面だおれはこんな枯草の斜面にひとりで坐つてゐるのが好きだ電車の音を遠くききながらさみしいいぢけた冬の雲でも眺めてゐようああ遠くおれの運んできたいつさいのもの思ひ疲れたやくざなおれの希望なら そこらの枯草にはふり出してしまへかうし…

「遠くの方は海の空」『駱駝の瘤にまたがつて』

遠くの方は海の空そこらのつまらぬ水たまりで小僧が鮒など釣つてゐるさみしい退屈な奴らだよいつもこんなところの木かげにかくれて油を賣つてゐるのだよ崩れかかつた堤防がぼんやりあたりを霞ませてそこいらいちめんすくすくと蘆の角がのぞいてゐるくされた…

「晩夏」『駱駝の瘤にまたがつて』

ダーリアの垣根ではダーリアを見たまつ赤に燃えるダーリアの花また日まはりの垣根では日まはりを見た重たく眩ゆくきな臭い 中華民國の勳章だ熱くやきつく砂の上で あそこでおれはいつまでも遠くむかうの三里濱の方を眺めてゐたあとからあとからあとから沖の…

「旗」『駱駝の瘤にまたがつて』

だからあの夢のやうなまつ白な建築 遠く空に浮んだ無數の窓のうへにその尖塔のてつぺんにひるがへる旗を見よ高く高く細くまつすぐにささげられた旗竿のさきああそこにも一つの海を見る海のやうにひるがへる旗を見るああその氣流の流れるところに 波は無數に…